そして未だにBD化されていない。なぜだ。
それはさておき、この映画でシュワちゃん演じる主人公のハリーが敵(深紅のジハード)に捕まった際、敵が所持する核が本物であることを証明するためにその説明をさせられるシーンがある。
そのセリフが以下だ。
「最新のコーヒー沸かし機」
違った。こっちじゃない。
「ソ連製のMIRV6だ。SS22N弾道ミサイル用。弾頭には14.5kgの濃縮ウランが詰まっていて、プルトニウム起爆装置付き。1個の破壊力は30kt(キロトン)」
さて、このセリフの以下の5つについてどういうことなのか調べてみた。
"ソ連製の①「MIRV6」だ。②「SS22N弾道ミサイル」用。弾頭には③「14.5kgの濃縮ウラン」が詰まっていて、④「プルトニウム起爆装置付き」。1個の破壊力は⑤「30kt」"
核兵器に詳しい訳でもない素人の付焼き刃なので理解が違う部分もあるだろうが許容して頂きたい。
- ①MIRV6
MIRV(Multiple Independently-targetable Reentry Vehicle)というのは、多弾頭独立目標再突入体のことで、これは「ひとつの弾道ミサイルに複数の弾頭(一般的に核弾頭)を装備しそれぞれが違う目標に攻撃ができる弾道ミサイルの弾頭搭載方式」のことであるという。 「6」の解釈については、MIRVの第六世代型というよりは、核弾頭搭載数が6のMIRVであると考える方が自然なので勝手にそういうものとして考える。
要は、MIRV6は一発撃てば6か所に核を落とせる核ミサイル兵器ということだ。
- ②SS22N弾道ミサイル
DVDでは日本語音声が2つ収録されていて、玄田哲章版で見ているが、菅生隆之版では以下のセリフとなっている。
「ソヴィエト製MIRV6だ。SS22Nで発射する。弾頭には14.5kgの濃縮ウランが詰まっており、プルトニウムで起爆する。破壊力は考証30kt。」
どうでも良いが、菅生版では、SS22を"エスエスニジュウニエヌ"、玄田版では"エスエスニーニーエヌ"と発音している。
と思って日本語字幕をONにしたら以下のように出て来た。
「ソ連製のマーヴ6だ 発射装置はSS22N。」
解決した。SS22Nというair launchだった。
アメリカ国防総省の識別番号がSS-N-22なのでおそらくそれをもじった核弾頭発射装置を示す識別番号なのだろう。
以下3つは関連性があるのでまとめて記述する。
- ③14.5kgの濃縮ウラン
- ④プルトニウム起爆装置付き
- ⑤30kt
原子爆弾は構造上の違いでは二種類に分けられる。
- ガンバレル型(例:広島に投下されたリトルボーイが)
- インプロージョン型(例:長崎に投下されたファットマン)
ファットマン以降の原爆のほとんどはウラン原爆のインプロージョン型となる。
メインは濃縮ウラン、起爆装置としてプルトニウムなので、構造上の話であると考えられる。
次に威力となる「⑤30kt」 だ。
核の威力は、J(ジュール)で計算されることもあるが、大抵はTNT火薬1tを基準に語られる。キロトンはkt。つまり、1kt=TNT火薬1000トン分の威力ということだ。
つまり、「⑤30kt」とはTNT火薬30,000トン分の威力ということになる。
ちなみに、広島投下のリトルボーイは15kt、長崎投下のファットマンは22ktと言われている。
最後に「③14.5kgの濃縮ウラン」だ。ここは自分が一番知りたかったことなのでもっと正確に書こう。
- 「③14.5kgの濃縮ウラン」が破壊力30ktであることの妥当性
Wikiによると、リトルボーイのウラン積載量は約65kgであるが、そのうち核分裂反応を起こしたと推定されているのは1.38%の約876.3gであるという。
それで15ktの威力(5.5x10^13ジュール)だ。30ktの威力ということは単純にウラン換算で倍の1.8kgくらいが格分裂を起こすということになる。14.5kgのうち1.8kg、12.4%が反応すれば良いことになる。
インプロージョン型の場合、ガンバレル型よりも反応精度が高いが、一方でブースターを搭載しない場合は5分の1程度、つまり20%ほどしか反応させることができなかったようだ。
プルトニウム起爆装置については、あくまで起爆装置であるならば核出力の主ではないと考えられるが、一方でプルトニウムはも十分な核エネルギーとなる。
仮にプルトニウム1kgだとしよう。これを原子数に換算すれば 2.58x10^24なので、それが全て反応すれば80TJのエネルギーとなりTNT換算でそれは19ktにもなる。勿論反応率100%ということはあり得ないが、ファットマン同様の20%の反応率だとすればその破壊力はおおよそ4ktにもなる。...はずだ。
とはいえ起爆装置としてプルトニウムをどの程度使うのがセオリーなのかは知らないので何とも言えないが...。
まぁ結局は反応率次第ではあるが、仮に10~15%程度だと考えれば30ktというのは控えめに見た場合で、まぁ妥当なラインと考えられる。
なので、単純に「③14.5kgの濃縮ウラン」が破壊力30ktであることだけの話であれば妥当であると言えるのではないだろうか。そう。あくまでこれを”原爆”としてみた場合は。
というのも、映画で登場する核弾頭は航空機から投下される核爆弾ではなく、弾道ミサイルに搭載される核ミサイル弾頭だからだ。
映像としても円錐形状で登場している。弾道ミサイルに搭載する落下速度はマッハ20以上に達するという。そのため、円錐でなければ衝撃波に耐えられないらしい。
※弾道ミサイルに搭載する核弾頭の入った容器を再突入体と言う。大気圏を出て宇宙空間に行き、また大気圏に突入して目標地点に落下するためそう呼ぶらしい。
MIRVを用いた再突入体が登場するということは、これは核は核でも原子爆弾ではなく水素爆弾であるということになる。1960年代後半に開発されたMIRV用弾頭のW68は既に水爆なのだ。
水爆は基本は二段階で起爆する。プライマリーとして最初に原爆を起動し、その高温・高圧によって、セカンダリーの水素同位体(重水素、三重水素)を核融合させることで原爆以上の破壊力を生み出すことができるというのがその理論だ。
であれば、水爆の核出力はセカンダリーの重水素、三重水素の核融合部分になるはずなので、単純にプライマリー部分がプルトニウム起爆を行う14.5kgのウラン型であるというくらいの意味合いということになる。ただ、それは上述の通りプライマリーのウランだけで30ktの威力が出ると思われるので、セカンダリーの水爆の出力を考えれば当然それ以上となる。
アメリカが1970年に生産したW62(MIRV用の弾頭)で170ktである。これ以降は核出力が増えており、最新のW88では最大475ktにもなるようだ。
もっと古いものであれば、アメリカでMGM-1に搭載されたのW5核弾頭なんかであれば核出力20ktと映画の核弾頭威力に近付くが、これは運用開始が1953年だ。
映画で登場する核弾頭が軍事技術がソ連/アメリカより劣る別の国で生産されたものであるならともかく、ソ連製のMIRV6だという言っている。さすがに映画の時代背景はそんなに古くない。それを思うと、水爆で威力30ktは単純に小さ過ぎるように思える。
よって、「③14.5kgの濃縮ウランが破壊力30ktであることの妥当性」は、プライマリーの威力としては妥当だが、セカンダリー含めた水爆全体の威力としては小さすぎるという結果になる。
さて、素人検討ではあるが一応結果は出たがここから何かを主張するつもりはない。
調べてみた。それで終わりである。
当然、映画に対してイチャモン付けようとかそういうつもりは毛頭ない。
むしろ、アクション映画で原爆と水爆の違いなんて眠気を誘ってテンポを削ぐ愚を犯すわけないので、限られた時間の中で、とにかくヤバイ核兵器を敵が持っているんだぞという説明を誰にでも伝わる最低限のセリフで表現していることが脚本良さを表している。
原爆と水爆の違いを詳しく知っている人間は割合としては多くはないかもしれないが、それでもプルトニウムや濃縮ウランという単語を知らない現代人はいないしそれが原爆に使われていることを知らない現代人もいないからだ。
今なら尼で1000円でDVDが買えるので、おひとついかがだろうか。勿論、手を滑らせてコマンドー(こっちはBDが出てるよ)も買ってしまうこともあるだろうが、それは誰しも経験があることだろう。
あ、そうそう。敢えて一つ主張させてもらえるならば、BDの発売を...どうかお願いしたい。
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アウトプットが大事とはよく言うけど、実際に文字で書いていくにつれ、理解が非常に浅いことに気付かされるものだ。なので、この記事を書くために本を読み返したり、あれこれ調べている間に合計でトゥルーライズ本編が6週目に突入してしまった。